まちを通る風を感じて

防災・復興まちづくり研究者,市古太郎のBlog

平時のまちづくりに再接続される首都直下型地震対策としての事前復興まちづくり

 表記のタイトルで,株式会社日本能率協会総合研究所のMDBトレンドレポートに寄稿させていただきました.過去には,耐水建築デザインや海底地震学で学ばせていただいている研究者の方々からの寄稿もあり,MDBレポートの中では,やや異色な内容になりますが,とおことわりをした上で,お引き受けしました.
 都域全71地区の「震災復興まちづくり訓練」の実施地区のリスト化,Harry P.HatryのOutcome-Sequence Chartを元にした先行研究のレビュー,そして「平時のまちづくりへの再接続」の意味について,東池袋での取組み展開を事例にレポートを執筆してみました.再接続とは「土地の高度利用と公園・広場の集約という修復型まちづくり計画への一体的再構成が提起されている」という意味もあります.引き続き,研究を深めていきたいと思っています.

 今回の報告に関係する論考として,下記があります.

  1. 市古太郎(2020)木造住宅密集地域を対象とした復興まちづくり訓練で創発される<事前>復興まちづくり計画の意義と可能性, 日本都市計画学会論文集,Vol.55, No.3,pp.910-917
  2. 市古太郎(2020)未被災地の日常の現場から育まれる復興概念の可能性-東京の事前復興まちづくりから-,日本災害復興学会論文集,pp.151-158,日本災害復興学会,第15号,2020/9月
  3. 市古太郎(2016)事前復興まちづくりの現在,特集 東日本大震災5周年,日本不動産学会誌,No.115,Vol.29No.4, pp.54-60,2016/3月

 ある意味で,2016年,2020年に執筆機会をいただいた内容を継承しつつ,コロナ禍を前後しての現場実践と理論的展開を考察した内容となりました.

 コンテンツのURLは下記です.

 

https://search01.jmar.co.jp/mdbds/mdb_contents04/

 関心をお持ちの方で,市古まで,お問い合わせいただければ,本稿,ご提供もいたせます.

 

 

木密ジェントリフィケーションと修復型まちづくり計画論の再構築

表記の演題にて,建築学会大会(近畿)の都市計画PDで報告.報告の趣旨は次の4点,

  1. 東京の木造住宅密集地域の縮小と変容
  2. 変容実態としての高度利用(木密ジェントリフィケーション)
  3. 木密ジェントリフィケーション=Smithの「地代格差論」への符合の可 能性高.同時に「修復型まちづくり計画論」への資本回帰でもあるの ではないか.
  4.  想定首都直下型地震へのまちづくり分野の備えとして,どう「まちづ くり計画論」を再構築するか

1.の「木造住宅密集地域の縮小」については,これまで報告書の画像ベースだった東京都の木密判定をデジタル化して,26年間の減少傾向を区別に分析を行いました.質疑応答を踏まえて,後日ペーパーにしたいと思っています.

なお本報告にあたっては,下記の研究活動も下地となっています.

3時点の木密判定のデジタル化結果,本PDでの報告のエッセンスとして下記に提示します.

 

市民防災の視点からの関東大震災百年連続勉強会第六弾

 東京での被災者支援や市民防災に取り組む市民活動団体で取り組んできた,東京憲章関東大震災百年の連続勉強会,最終回を8/17(木)に開催します.基本は,これまでの全五回にわたる勉強会の振り返りと共有,ですが,後半は大放談会になりそうです.論点はずばり「被災者生活支援と復興まちづくり」です.「と」と表現しておきましたが,両者には,長年の,複雑な,それでも前進しつつある「営み」があるように感じています.

 ハイブリッド開催ですので,よろしければ,ぜひどうぞ.

 申し込みは下記です.

 https://www.tvac.or.jp/tokyokensho6.html

 

 

都市計画学会誌 特集 関東大震災百年:近代復興から現代復興へ刊行

 編集担当を務めさせていただいた関東大震災百年特集号,刊行となりました.尊敬する先輩方への,また,政治学や都市社会学の泰斗の先生方へのインタビュー記事,区画整理技術,復興建築による不燃化,住宅再建支援策,国民防空への展開,物流,労働市場の回復,また民間ディベロッパーの果たした役割についての論考,ご執筆,ご協力いただいたみなさんに,心より感謝いたします.

 当方は,裏表紙の「地図の中の風景」,巻頭言,編集後記「近代復興の行き着き先と現代復興」の執筆編集にも従事させていただきました.巻頭言を最後に編集部へお送りしたのですが,下記のように文を入れさせていただきました.

 実は下記の1つ目の視点「歴史的事実の考察から将来を展望する」は,石田頼房先生が建築学会大賞を受賞された記念講演会で,都市計画史研究の意義として,述べていらっしゃった言葉でした.石田先生はこの発言に続けて「大原則から法律を変えていく」とお話をされました.今回,百年を考える,という枠組みの中で,編集に取り組む中で,浮かんできた,第二,第三の「振り返りの」視点,合わせて,今後もご意見,議論が進むことを願って,本Blogでも紹介させていただきます.

本号は,関東大震災百年の特集号である.

 都市計画学会誌で関東大震災百年の特集を,という空気は,2021年3月「東日本大震災,復興10年の到達点とこれから」を刊行した時点から感じていた.東日本大震災10年特集では,復興に直接従事された会員諸氏にそれぞれの想いを執筆いただき,「復興と共創のエリアマネジメント」といった,平時の都市計画に再接続されるべき,新しい計画技術の可能性も導出された.

 それでは百年後の「いま」から振り返る特集号とは,どんな切り口になり得るか.すでに都市計画分野の研究としても,復興区画整理事業や同潤会アパートメント,復興公園といった学術的知見が共有されている中,企画編集をスタートさせた.結果的に今回,次の三つの視点から,振り返りがなされたように思われる.

  第一に,歴史的事実の考察から将来を展望する,という視点である.消火活動から国民防空の展開,関東大震災と都市の不燃化,区画整理事業と換地技術といった,発災時対応と帝都復興事業,その後の都市計画技術展開を考察した論考が挙げられる.第一の視点は東日本大震災10年特集号での論説も含め,都市復興研究の基底にもある方向性と言えよう.

 第二に,「いま」の視点で歴史的事実を発掘するという方向性である.百年後の「いま」から見ると,都市計画学においてあまり意識されてこなかった領域があるのではないか.帝都復興院での審議記録を含め,計画事業者側は,多くの記録を残している.一方で生活や生業に関する被災者の主体的な営み,言い換えれば,今日の災害復興まちづくりにおいて,当然に対象となっているテーマについては,当時の記録も断片的であり,歴史的事実の発掘含め,都市計画学として考えていくべきではないか,という視点である.

 第三に百年の時間軸で,都市計画の計画思想や計画文化,計画論の遷移・転換を考察するという方向性である.その点から本特集号は副題に「近代復興から現代復興へ」を掲げた.渡邊俊一氏,田中正人氏,そして編集担当委員によるインタビューと論考,そしてまとめの座談会「近代復興の行き着き先と現代復興」は,この点に正面から向き合った一つの到達点である.

 なお少々意外なことに,これまで本誌では50年や80年といった節目で関東大震災特集を取り扱っておらず,関東大震災を特集として据えたのは本号が初めてである.今回,牧紀男,岡村健太郎,益邑明伸の3人に編集担当に加わっていただき,思考と議論を続ける中で,発行に至った.

(担当編集委員:牧紀男,岡村健太郎,益邑明伸,市古太郎)

 

市民防災の視点からの関東大震災百年連続勉強会第四弾

 東京都災害ボランティアセンターに関する様々な支援団体,子ども支援やマイノリティ支援に取り組む民間法人区市町村社会福祉協議会のネットワーク組織で,関東大震災百年に関する連続勉強会を2022/12月から全六回構成で進めています.当方も実行委員ワーキングの一員として,智慧を絞ってきました.

 6/28(水)の夜,第四弾の勉強会「多様性配慮」をテーマに公開勉強会を開催します.この話題はとても重い意味を持っているテーマですが,事実を直視しつつ,「これから」も考える場に,という方向で企画方針も整ってきました.お申し込みはこちら,です.

 なお,この話題の関連で,国立映像アーカイブで今年(2023年)3月に公開された森田のり子さん「描かれなかったものは何か」は,是非,ご覧いただければ,と思います.

https://kantodaishinsai.filmarchives.jp/columns/c07.html

 

都市計画学会誌 特集:関東大震災100年,予告

 現在,日本都市計画学会の学会誌編集委員会で活動しています.都市計画学会誌は年6回発行で,2023年7月発行予定の特集:関東大震災100年:近代復興から現代復興へ,の編集主査を務めてきました.

 ほぼ編集方針と執筆依頼,また4本のインタビューも進行しつつあり,その中で,関東大震災と都市計画,について,百年後のいま,から深める意義についてもフォーカスで絞られつつあります.

 次号予告,ここで紹介しておきたいと思います.

 次号は今年9月で百年となる関東大震災の特集号です.

 関東大震災の帝都復興については,すでに多くの記録や研究成果があります.

 今回の特集では,関東大震災「への」と「からの」という視点を重視しています.関東大震災「への」取組みとは,明治・大正期にかけて誕生しつつあった「近代都市計画」の思想・計画技術・体制による対応と深化を考察するという意味であり,都市住宅政策,市街地計画技術,都市計画に関する専門家と官僚組織,民間事業者・プランナーの登場と貢献といったテーマを掘り下げます.それはまた,その後の都市づくり・都市計画に帝都復興がどんな影響を与えたか,という関東大震災「からの」取組みの考察につながっていく側面を有していると言えましょう.

 また特集テーマにある「近代復興から現代復興へ」において,近代復興が思想・制度・運動として確立したのが関東大震災であったと仮構して編集作業を進めています.さらに関東大震災は「近代都市計画」の確立という視点からはどう深めることができるか,特集論考とインタビュー,まとめの座談会で考究する予定です.

 

都立大学都市政策科学科で「防災を学ぶ」

 2017年4月に改組発足した東京都立大学都市政策科学科」は,2023年3月で発足5年となりました.発足以来,学部1年生必修科目として「都市政策科学の学び」を開講していますが,その第1回ガイダンスで,都市政策科学科として取り組む5つの主要政策課題の1つに防災復興分野があること,そしてその防災復興に対して,都市計画学×人間行動科学でアプローチすることを述べています.

 「防災を学問として学ぶ」ことも近年,認知が広がってきたように感じます.下記は第1回ガイダンス時の防災復興分野に関するスライド,です.

 

『伊豆諸島の自然と災害』刊行しました

 2022/9/19付けの本Webページ記事にもありますが,2013年伊豆大島台風26号災害からの災害調査,復興計画策定への従事,復旧復興調査,町立小中学校での防災フィールドワーク事業,都立大実習授業実施,といった取組みも踏まえて,表記書籍の編著者として,第12章火山離島での自然災害対応と生活回復過程,を執筆しました.

 執筆にあたっては,

  1. 八丈島民大学講座(2022/9/19)「災害市民ボランティア論 - 東日本大震災以降の東京都災害ボランティアセンターの取組みを踏まえて -」
  2. 東京都立大学オープンユニバーシティ「日本の火山 最新研究と火山災害」第2回(2021/2/27)「火山防災の体系と噴火時の避難行動実態―火山と向き合い共生する」
  3. 火山災害対策研究FORUM(2019/2/19)「2013 年台風 26 号火山泥流災害における「主体的な避難」に関する考察 」,東京都立大学火山災害研究センター

 において,八丈島島民のみなさん,研究者,都民のみなさんとの対話とコメントをいただきつつ,進めてきました.よろしければ,お手に取っていただければ幸いです.

 鈴木毅彦・市古太郎編著『伊豆諸島の自然と災害』古今書院,2023

2022年度後期 災害社会論 最終回にあたって

 都市政策科学科専門科目として「災害社会論」を担当しています.防災科学と建築まちづくり学の理論と知見を元に「人と社会と風景」に焦点をあてて,災害現象を理解していく授業です.必ずしも多くの学生が災害を経験していない中で(それはとても幸運なことであるのですが),15回をかけて,主に当方からの講義形式を中心に,リアクションシートでの各年度の受講生の問題関心テーマに対応する方向で構成しています.

 2022年度後期「災害社会論」は下記のような内容で最終回に至りました.

I.東日本大震災をとらえる:津波避難と避難生活・仮住まいをめぐって
 第1回(10/05)授業ガイダンス:What is a disaster ?
 第2回(10/12)大川小学校の事故を読む(2014 年 3 月事故調査報告書と 2018 年 4 月仙台高裁判決)
 第3回(10/19)津波避難行動の理論と東日本大震災の実態から見えてくるもの
 第4回(11/09)津波防災文化—岩手県山田町の事例から—
 第5回(11/16)仮設のすまい・まち
 
 II.避難生活と復興まちづくり:阪神・淡路大震災東日本大震災
 第6回(11/30)「災害避難所」論(平木繁先生)
 第7回(12/07)都市計画と都市復興(1995 年 阪神・淡路大震災)
 第8回(12/14)回復力のあるコミュニティとは—雄勝町水浜集落と宮古市田老町
 第9回(12/21)「寄りそう」プランニングと豊穣の大地—気仙沼杉の下集落のすまい再建支援から 
 第10-11回(12/27)「理想の仮設住宅」提案発表会

III.災害復興に関する特論
 第12回(01/04)間(あわい)ゆくこころ—1 人ひとりの葛藤の選択の中で,とりもどすべき風景とは—
 第13回(01/11)続復興の風景論・復興の語り方・時限的市街地デザイン
 第14,15回(01/18,25)東日本大震災 12 年:復興の到達点—事前復興まちづくりとまち復興のデザイン論—

家庭と地域の防災行動要因の調査報告-郊外大規模開発造成住宅地を対象に-

 1970年代に造成開発された八王子市内K住宅地区を対象に,K地区自治会全世帯にアンケート調査票調査を実施し,回収数366通(回収率51.9%)の調査結果を2022年度秋季地域安全学会大会で査読論文として発表しました(2022/10/30,静岡県地震防災センターにて).発表に先立って,K地区の自治会総会でも報告とお礼をさせていただきました.

 リサーチクエスチョンは「家庭防災(自助)と地域防災(共助)は相互にどんな関係を有し,その有機的連携策をどう組み立てたらよいか」です.最も関連する先行研究として,元吉ら(2007)の「家庭防災と地域防災の行動意図の規定因に関する研究」がありましたが,本研究では,全世帯意識調査結果をパス解析すると同時に,5年にわたるフィールドワークとアクションリサーチを踏まえて考察を行いました.地域コミュニティ防災研究におけるささやかですが,手応えある貢献ができたように思います.よろしければ論文もご笑覧ください.

市古太郎(2022)郊外大規模開発造成住宅地における家庭と地域の防災行動要因に関する研究-八王子市K地区を対象としたパス解析-, 地域安全学会論文集No.41,pp.345-354