まちを通る風を感じて

防災・復興まちづくり研究者,市古太郎のBlog

「災害時のための市民協働東京憲章」についてのコラム

 TVACの情報誌「ネットワーク」2022年12月号で記事になりました.下記のドラフトに加えて「都市計画・まちづくり」の研究者である人間が,なぜ,市民防災・災害支援のみなさんとの連携を大切にするのか,追記もさせていただきました.ご高覧いただければ幸いです.

 記事抜粋PDF

 

www.tvac.or.jp

 

 東京ボランティア・市民活動センターの機関誌で「災害時のための市民協働東京憲章」について,バトン形式で連載企画が進行しています.2022/12月号にバトンを受け,草稿を書いてみました(2022/11/4).

 

小田実市民運動論および草地賢一の市民社会論と東京憲章

 「市民協働」は公的にも定着した用語である.例えば少なくない自治体で「市民協働」関連条例が制定され,市民協働推進課を設置し,市民協働を進めている.それでは「災害時のための」との前節句は何を意味しているのか.東京憲章起草に関わる機会をいただき,市民協働で取り組む防災対策と復興事前準備に携わってきた筆者が感じているのは,阪神・淡路ボランティア・復興市民活動からの継承と発展という景色である.

小田実さんや草地賢一さんの思想の継承

 阪神・淡路からの継承とは何か.それは突き詰めて言えば,小田実さんや草地賢一さんの思想の継承ではないかと考える.それは小田実さんの「自分のやりたいことをやる,人のやることに文句をつけるな,文句があるなら自分でやれ,自分で決めたことは自分でやる,人にやれと言うのではなく自分でやる」という市民運動論であり,草地賢一さんがめざした「ボランタリズムとは市民社会」であり「国家が直接おこなうより,自由で自主的な意思をもつ民間団体や市民がおこなう方がよい」という市民社会論であると思う.小田実市民運動論と草地賢一の市民社会論,神戸で実践され,鍛えられてきた思想は,東京憲章の5つの基本方針に,つきつめれば,つながっている側面もある,と思われる.

 すなわち市民運動論の視点からは基本方針の「方針I.一人ひとりの尊厳の尊重」と「方針III.支援者は情報を共有しともに支援活動に取り組みます」に接続されてくる.災害時であっても,いや災害時であればこそ「一人ひとりの尊厳」を尊重し「一人ひとりの声を聞きながら支援活動に取組む」姿勢を掲げたい.また「情報を共有しともに支援活動に」は神戸の市民リーダーが企図してきた営為であり,厳しい災害支援の現場環境の中で,特に重要な理念である.そして市民社会論の視点からは,子ども,障害のある人,多様な性や多様な信仰を「尊重し,できるだけ継続されること」を東京憲章では「私たちが大事にしたい2つの視点」の1つに掲げている.これらの支援活動は,市民や民間の力がより効果的に発揮できる領域であろう.

阪神・淡路からの発展:「わたしたち」の経験と教訓

 次に阪神・淡路からの発展とは何か.発災から四半世紀が経過し,三宅島噴火,中越,東日本,熊本などの激甚自然災害と被災地支援の経験の中で,多くの,極めて重要な「発展」があった.そして東京で活動するメンバー,すなわち東京都災害ボランティアセンター・アクションプラン推進会議で関係を育み,共に取り組んできた「わたしたち」の経験と教訓が,たとえばスタッフのケアへの視線など,東京憲章本文,とりわけコラム文にギュッと表現されている.

その中でも特に「激甚未被災地」東京として憲章副題が掲げる「平時からのボランティア・市民活動がめざすもの」の意義を強調したい.平時から発災後の事前準備に取り組むだけでなく,平時から発災時に生命と身体を守る活動に取り組んでいこう,といういわば「直接被害軽減」を重視した活動方針である.一人ひとりの尊厳を理解し,多様な生き方,暮らし方を尊重する立場から,事前防災シフトを企図する意義は小さくないと思われる.

 本稿で筆者は,一般社団法人CS-Tokyoの代表理事として,個人的見解としての東京憲章の意義を記させていただいた.「そもそも支援とは何か」といった根源的な問いも重ねつつ,多くのみなさんと,理念の旗も大切にしながら,市民主体の災害への備えを展開していきたい.若い世代を惹きつける空間,関わりつづけたいと思えるプラットフォームもめざしたい.

 

引用文献

鶴見俊輔小田実『オリジンから考える』岩波書店,2011年

島田誠「草地賢一-神戸からのボランティア元年を拓く」『ひとびとの精神史第8巻』岩波書店,2016年