まちを通る風を感じて

防災・復興まちづくり研究者,市古太郎のBlog

都市計画学会誌特集号:東日本大震災,復興10年の到達点とこれから

 都市計画学会の学会誌編集委員として働かせていただいていますが,2021/3月発行の「特集:東日本大震災,復興10年の到達点とこれから」(第349号)の編集担当をさせていただきました.約半年にわたり,さまざまな立場と現場からご示唆をいただき,視野を広げさせていただきました.入稿したPrefaceとPostscript,下記です.
 よろしければ,手にとっていただければ幸いです.

https://www.cpij.or.jp/com/edit/info.html

Preface

 東日本大震災において,都市計画はどんな役割を果たしたのだろうか?
 被災された会員,復興を現場で主体的に担った会員も少なくない,また主として研究・教育の面から,被災地域に身を置き,多くの学びを得てきた学会員 も多数に及ぶものと思われる.
 本学会における情報共有・発信の経緯として特集号の発行を振り返れば,

  • 2011.06(291号)緊急特集号
  • 2011.08(292号)都市と地域システムの脆弱性と強靭性:東日本大震災を踏まえて
  • 2012.04(296号)東北の現在と未来-震災1周年の現在
  • 2012.10(299号)東日本大震災からの復興と今後の防災
  • 2014.10(311号)福島の復興まちづくり
  • 2015.12(318号)防災・減災に向けた都市・地域づくり
  • 2019.03(337号)これからの都市・地域 のリスク・マネジメント

と全部で 8 回の特集が組まれてきた.
 本号では,改めて東日本大震災の被災地復興にフォーカスし,都市計画学会 としての初動対応,復興法制の立法と改正,復興事業制度の創設と成果,復興 中心市街地でのエリア・マネジメント,復興集落コミュニティのデザインといっ た取組みの到達点を論考する.その上で,東日本大震災復興の延長としての熊 本,国際防災,南海トラフ沖巨大地震,また新型コロナ感染症の影響も踏まえ た避難対処行動について取り上げる.
 建築・土木・造園といった隣接分野における復興 10年の検証も同時並行でなされていると聞く.本特集号は,そういった隣接領域でのレビューも横目にし ながら,都市計画が担った役割を検証し,国内外の巨大震災,および広域化・ 激甚化する気象災害も含めた都市計画の活動を展望していく一助になればと考える.

Postscript

 特集扉頁にあるように「都市計画はどんな役割を果たしたか」が今回の編集方針である。そして,その問いに付随 するように「都市計画の実践・研究において,事前・事後 の自然災害対応,言い換えれば防災復興分野の位置づけは どう変化したか」というやや「内向き」かもしれない問い も感じていた.都市計画分野に限らないが,東日本大震災後,あらゆる 研究領域において,災後の社会に対し自分たちに何ができ るのか,という問いが発せられ,活動がなされていたように思う。10 年の月日の中で,その応答の営みは本学会全 体として,多寡はあれど,継続できていただろうか.
 掲載論考から,この問いに対する力強い応答を感じさせ ていただいた。岸井隆幸氏は「非常時に対応するためのよ り柔軟な都市計画制度を」,また佐々木晶二氏は「東日本 大震災時の復興事業法制度を平時から適用する検討を」と 提言する。そして川﨑興太氏は「自然災害とは特質の異な る原子力災害に対する復興法制度と国家体制の創設」を除 染と帰還に関する現地調査を基に説いている
 そして,今回の論考の中でとりわけ印象的だったのは, 復興と共創のエリマネ座談会における「真の事前復興とは」 というフレーズであった。災害という現象は「いつもの日 常の先」ではなく,「いつもの日常の中」にある。被災地 ではそんな感覚が広がっているのではないだろうか。そし て本学会において「いつもの都市計画の中に」という感覚 が接続されつつあるのではないか。 (市古 太郎)