まちを通る風を感じて

防災・復興まちづくり研究者,市古太郎のBlog

八王子での事前復興まちづくりの新たな展開

 2022年3月に八王子市は「震災復興マニュアル」および「八王子市震災復興の推進に関する条例」の改訂をおこないました.当方もまちづくり・災害研究の研究者として,また研究室の社会貢献活動として,お手伝いをさせていだきました.今回,修正版が市役所ホームページで公開されましたが(2022/4/9時点では予定),その中に「コラム」を書かせていただきました.これまでの研究室としての活動の経緯,そしてこれからの方向性について触れました.ここで紹介します.

震災復興対策|八王子市公式ホームページ

八王子における震災復興の取組みについて

市古太郎(東京都立大学

 八王子市では新潟県中越地震(平成16年)を直接の契機とし,東京都と連携しながら,事前復興対策を進めてきました.5地区の市民との地域協働復興訓練を経て,平成26年に今回の改定の元となった震災復興マニュアルを策定,その後も2地区で市民協働復興訓練,および職員を対象とした復興まちづくり訓練を実施しています.一方で平成26年マニュアル以降の動きとして,東日本大震災被災地において,復興まちづくりが進捗し,すまい・くらし・なりわい・まちの再生が進行すると同時に,「復興法」制定や被災者生活再建支援法改正といった法制度対応が図られ,かつ平成30年国土交通省の「事前準備ガイドライン」公表も契機となり,日本全国で復興事前準備が促進されつつあります.さらに東京都の震災復興対策も「防災都市づくり推進計画(平成28年改定)」に位置づけられるなど,その展開が図られています.

 以上を踏まえると「事前に復興に備える」という考え方は,八王子市において,行政・市民・大学等の専門機関の間で定着したものになっていると言えましょう.その上で,八王子の事前復興対策の特徴として4点,指摘しておきたいと思います.これは,今後も精度を上げていく,という意味も込めてです.なお東京都立大学都市防災・災害復興研究室は,八王子市の事前復興対策に,当初段階から関わる機会をいただき,今回の改正作業においても協力をさせていただきました.

 第1に東京区部と比べた際の市街地復興計画の多様性です.区部では基本的に,木造住宅密集地域が事前復興検討の主対象となっています.八王子では,密集市街地に対する検討だけでなく,「復興モデルプラン」として整理されていますが,たとえば「都市基盤が脆弱な住宅地」とは,農地混在の戸建て住宅地が該当し,持続可能な住宅地という観点からも,防災空間性能向上をきっかけとした市街地環境改善が考えられる地区です.また「沿道集落地」は移転型再建を選択肢として想定するもので,東京区部では入ってこない復興計画と言えます.

 第2に「商業業務集積地」という類型から,中心市街地の復興課題と復興計画の方向性を示している点です.東日本大震災からの市街地復興では,「安全でにぎわいのある」中心市街地復興が注目を集めています.それは「津波災害に強いまちの空間」という「もの」に加えて,商業活性化やエリアマネジメントといった「こと」づくりをカバーした復興でした.その教訓からも,八王子市の復興事前準備として,中心市街地を打ち出したことは,大きな意義を有しています.

 第3に市民防災力との連携です.市内では,消防団や自主防災組織といった法的根拠をもつ防災活動団体にとどまらず,青少年対策地区委員会や地域運営学校組織が,地域防災活動に取り組んでいます.また令和元年台風19号では八王子市災害ボランティアセンターが開設され,多くの市民による災害ボランティア活動が行われました.こういった市民主体の地域防災活動において,生活回復準備,すなわち災害時の水の確保や近隣避難所と連携しながら自宅で生活支障を乗り越えていくための取組みにも関心が高まっています.そして災後の生活回復に向けた地域防災活動は,市民と行政が連携して取り組む「地域協働復興」であり,その方向性が本マニュアルでも示されています.

 第4にマニュアルと双対となった復興訓練やワークショップの位置づけです.すでに市内7地区で市民との地域協働復興訓練を実施し,加えてほぼ毎年,職員を対象とした復興まちづくり訓練が実施されています.本マニュアルの序第4節は「震災復興まちづくり訓練実施」について記載しており,本マニュアルが復興訓練やワークショップ実施の根拠となっていると同時に,それらの実施成果をもとに,本マニュアルの必要な加筆修正を行っていく構成としています.つまり,震災復興マニュアルと復興をテーマとしたワークショップ型訓練は,事前復興対策の両輪と位置づけられているのです.

 本改定を経て,八王子市の震災復興対策はさらに体系化されたと言えましょう.それは市民の災害不安に応え,主体的な活動を支えていくものでもあります.地元大学としても引き続き協力従事していく所存です.