まちを通る風を感じて

防災・復興まちづくり研究者,市古太郎のBlog

都市計画学会誌 特集 関東大震災百年:近代復興から現代復興へ刊行

 編集担当を務めさせていただいた関東大震災百年特集号,刊行となりました.尊敬する先輩方への,また,政治学や都市社会学の泰斗の先生方へのインタビュー記事,区画整理技術,復興建築による不燃化,住宅再建支援策,国民防空への展開,物流,労働市場の回復,また民間ディベロッパーの果たした役割についての論考,ご執筆,ご協力いただいたみなさんに,心より感謝いたします.

 当方は,裏表紙の「地図の中の風景」,巻頭言,編集後記「近代復興の行き着き先と現代復興」の執筆編集にも従事させていただきました.巻頭言を最後に編集部へお送りしたのですが,下記のように文を入れさせていただきました.

 実は下記の1つ目の視点「歴史的事実の考察から将来を展望する」は,石田頼房先生が建築学会大賞を受賞された記念講演会で,都市計画史研究の意義として,述べていらっしゃった言葉でした.石田先生はこの発言に続けて「大原則から法律を変えていく」とお話をされました.今回,百年を考える,という枠組みの中で,編集に取り組む中で,浮かんできた,第二,第三の「振り返りの」視点,合わせて,今後もご意見,議論が進むことを願って,本Blogでも紹介させていただきます.

本号は,関東大震災百年の特集号である.

 都市計画学会誌で関東大震災百年の特集を,という空気は,2021年3月「東日本大震災,復興10年の到達点とこれから」を刊行した時点から感じていた.東日本大震災10年特集では,復興に直接従事された会員諸氏にそれぞれの想いを執筆いただき,「復興と共創のエリアマネジメント」といった,平時の都市計画に再接続されるべき,新しい計画技術の可能性も導出された.

 それでは百年後の「いま」から振り返る特集号とは,どんな切り口になり得るか.すでに都市計画分野の研究としても,復興区画整理事業や同潤会アパートメント,復興公園といった学術的知見が共有されている中,企画編集をスタートさせた.結果的に今回,次の三つの視点から,振り返りがなされたように思われる.

  第一に,歴史的事実の考察から将来を展望する,という視点である.消火活動から国民防空の展開,関東大震災と都市の不燃化,区画整理事業と換地技術といった,発災時対応と帝都復興事業,その後の都市計画技術展開を考察した論考が挙げられる.第一の視点は東日本大震災10年特集号での論説も含め,都市復興研究の基底にもある方向性と言えよう.

 第二に,「いま」の視点で歴史的事実を発掘するという方向性である.百年後の「いま」から見ると,都市計画学においてあまり意識されてこなかった領域があるのではないか.帝都復興院での審議記録を含め,計画事業者側は,多くの記録を残している.一方で生活や生業に関する被災者の主体的な営み,言い換えれば,今日の災害復興まちづくりにおいて,当然に対象となっているテーマについては,当時の記録も断片的であり,歴史的事実の発掘含め,都市計画学として考えていくべきではないか,という視点である.

 第三に百年の時間軸で,都市計画の計画思想や計画文化,計画論の遷移・転換を考察するという方向性である.その点から本特集号は副題に「近代復興から現代復興へ」を掲げた.渡邊俊一氏,田中正人氏,そして編集担当委員によるインタビューと論考,そしてまとめの座談会「近代復興の行き着き先と現代復興」は,この点に正面から向き合った一つの到達点である.

 なお少々意外なことに,これまで本誌では50年や80年といった節目で関東大震災特集を取り扱っておらず,関東大震災を特集として据えたのは本号が初めてである.今回,牧紀男,岡村健太郎,益邑明伸の3人に編集担当に加わっていただき,思考と議論を続ける中で,発行に至った.

(担当編集委員:牧紀男,岡村健太郎,益邑明伸,市古太郎)